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​講義・講演の記録

第5回講演会 貧困と飢饉:  -「開発」の新理解に向けて

第5回講演会 2016年7月9日 ナザレ研修会        貧困と飢饉: -「開発」の新理解に向けて                  帝京大学 経済学部 松井範惇@ 本日のアウトライン:  若干の自己紹介  1. 国連のミレニアム開発目標(MDGs)  2. 維持可能な開発目標(SDGs)  3. 貧困とは何か  4. 飢饉の定義と原因  5. いくつかの例  6. 結論 1. 若干の自己紹介    大阪大学経済学部    アジア経済研究所    ハワイ大学修士(MA in Economics)    オハイオ州立大学博士(Ph.D., Teaching Associate)    ケニヨン大学、デニスン大学、アーラム大学    山口県立大学大学院 国際文化研究科    山口大学大学院 東アジア研究科    (独)大学評価・学位授与機構 評価研究部、そして    2010年から現職    アジア・アフリカの貧困、飢餓、飢饉、所得分配、農村開発、マイクロクレジットなどを研究、    最近はバングラデシュ、中国貴州省などで調査研究、ソーシャル・ビジネスを推進。 2. 国連のミレニアム開発目標(MDGs)   8ゴール18ターゲットのうち   第1のゴール:   極度の貧困と飢餓の撲滅:   ターゲット1:2015年までに1日1ドル未満で    生活する人口の比率を半減させる   ターゲット2:2015年までに飢餓に苦しむ人口の割合を半減させる。   飢餓とは何か   食糧摂取の不足によって、栄養失調が続き、体調の維持が困難となっている状態    ―十分に栄養の摂れない飢餓人口:9億7000万人    ―毎年1500万人(4秒に1人)が飢餓が原因で死亡    WHOによると、成人1人1日に最低限必要なカロリーは2700Kcalとされている。 3.維持可能な開発目標(SDGs)    2030年をめどに、17の開発目標    そのうち、第1目標は:全ての地域で、全ての形態での、貧困の終焉。  1.1 2030年までに、全地域で全ての貧困(1人1日$1.25以 下の人々)を終わらせる。  1.2 2030年までに、各国の貧困者(男性、女性、子供を問わず)を半減する。  1.3 貧困層と脆弱者に対する社会的な保護のシステムと政策を確立する。     第2目標は:飢餓の終焉、食糧の安全と栄養の改善を達成し、維持可能な農業を促進する。  2.1 2030年までに、飢餓を終わらせ、年間いつでも安全で、栄養ある十分な食糧への     アクセスを全ての人に確保する。  2.2 全ての栄養不良、栄養失調を根絶し、特に5歳未満の子供の発育不良や低体重について、     国際的な基準を達成する。  2.3 2030年までに、農業の生産性、食糧生産者の所得を2倍にする。 4。貧困とは何か:定義など  · 定義のいろいろ   1.広義と狭義:最も広い意味では、「貧困」とは(あるべき状態に比べて)何かが    欠けていること、(例:政治の貧困、教育の貧困、道路の貧困など)。狭い意味    では、経済的に苦しいこと、または所得などが低いこと、足りないこと、    とされている。   2.絶対的貧困 対 相対的貧困:    絶対的貧困:最低生存水準(成人1人で1日2700Kcal,およびその他最低限の    雨露をしのぐもの)に満たない状態    相対的貧困:所得分布(等価可処分所得)の中央値の½未満の人口の割合   3.途上国(地域)における貧困 対 先進工業国(地域)内の貧困:    これらは同じ「貧困」という概念で一括して議論できるのか   4.所得で測るのか、資産保有はどうするか    両方を組み合わせた指標が本来は望ましいが、データ入手は困難、指標の構築は    難しい。そこで、税務統計や消費支出データから、「所得」だけに注目する。    貯蓄は?自動車保有は?冷蔵庫は?  貧困の原因  (1)労働要因(例賃金、失業、など)  (2)教育、技能、能力などの低いこと、欠如  (3)病気、医療や介護の欠如、事故など  (4)借金、浪費(過消費)、ギャンブル  (5)災害、犯罪被害  (6)国の破綻  (7)内戦、紛争、戦争  (8)人口要因  (9)社会保障制度の欠如、不備、破綻  (10)富の再分配機能の不足  (11)景気悪化、インフレーション  (12)政策、法律、規則の欠如、不適切  (13)政府、社会の腐敗  (14)一部富裕層、特権階級の独占、搾取  貧困の帰結  (1)病気、飢餓、平均余命の低下  (2)低い教育水準  (3)労働(職種の制約、長時間労働、児童労働など)  (4)社会不安  (5)環境への配慮が低下 5。飢饉の定義と原因   · 定義:何らかの要因で人々が飢えて苦しむこと、急激で大量の死亡を伴い、死亡率の     上昇が見られる。  · 原因(と考えられているもの):  (1)食糧不足:食物の不作や凶作  (2)自然災害:火山、洪水や長雨、旱魃、病虫害、地震、雪害、台風、ハリケーン、     竜巻など  (3)人口要因:過剰人口、人口増加率>食糧生産増加率、  人口密度、子どもの数   *実は、飢饉の原因はこれらのうちのどの1つでもなく、どの組み合わせでもない。    もっと複雑で、複合的な政治経済的な理由・原因で「起こされる」(松井)  複合政治経済要因の一端  戦争、内戦、軍事化  開発政策  国際政治と経済の失敗  先進国からの援助  植民地支配、低開発、貧困  AIDS/HIV  不公正、不平等、  民主主義の欠如 6。いくつかの飢饉の例   · ソマリア(1992年):35万人、内戦、部族対立、東西冷戦の終焉   · エチオピア(1984-85年):100万人、政権に対する冷遇、政権能力の喪失、               国際社会の不機能     >>これら2つは、社会のシステムが崩壊していた。  · 中国(1958-61年):4000万人、大躍進期間、情報の歪み、中央政府の悪意。            無理矢理の工業化、農業の集団化(人民公社)  * 北朝鮮(1995-98年):60-100万人、配給システムの崩壊、国際援助、救援の               不機能、都市バイアス     >>これらは、システムが創出した飢饉   · ウクライナ(1932-34年):500-700万人、スターリンの集団化運動、大富農撲滅               運動、封じ込め政策   · マダガスカル(1985-86年):数万人、急激な過剰死亡、アンタナナリボ(都市)                のみの都市型飢饉、コメ生産の崩壊ーー>経済の崩壊、                市場の分断、急激な自由化    >>これらの2つは、典型的な封鎖経済による飢饉  * マラウイ(2001-02年):数万人、食糧・価格政策の失敗、備蓄も失敗、汚職と                腐敗、政治の不安定と権力の集中    * アイルランド(1845-47年):100万人、外国へ逃げて行った(多くは北米へ)、                  ポテトの病気、単品種栽培、イングランドからの                  冷遇、無策    >>これら2つは、政府の政策の失敗  結論:   1。飢饉の原因は、食糧不足、人口圧力、自然災害、のどれでもなく、それらは     きっかけ。要因として、目に見えるだけである。   2。穀物の不作、人口圧力、災害があっても、飢饉とはならなかったケースは多く     観察されている。逆に、平年作、人口圧力がなく、特に大きな災害がなくても、     飢饉は起きている、実は起こされている。   3。飢饉は、実はもっと複雑な国際、政治、経済的な要因を原因として、起こされる     プロセスであって、単純な現象ではない。   4。辞書や百科事典における飢饉の定義、説明が間違っているための有効な援助活動     ができなくされているし、効率的な、本質をついた救援が行われなくされている。   5。国際社会、ジャーナリズム、学問の世界は、「飢饉」の本質を真に理解できるよう     にするための、新しい定義、解説、報道、研究が必要である。           Thank You for Paying Your Attention.      熱心に聞いて、考えていただき、有り難うございました。

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