第6回講演 「神道の歴史と今、そしてこれから」
第6回講演
「神道の歴史と今、そしてこれから」 ナザレ研修会講演2016年11月12日 井上順孝 はじめに ・「神道」のさまざまなイメージ:鎮守の社、日本文化そのもの、八百万神、国家神道、愛国主義等々 ・境界が不明瞭:仏裁とどう違う?陰陽道は神道なのか?単なる習慣ではないのか? ・神社神道、教団神道(見える神道)、民族神道(見えな神道の3つのレベルで考える Ⅰ.神社神道の歴史と今 (l)神社の成立 ・社のない時代 ・自然を崇拝・・・山、海、森、岩、・・・。自然現象への畏怖・・・雷、風 「磐座(いわくら)祭祀」→「神籬(ひもろぎ)祭祀」→「社殿祭祀」と進んだと考えられる。 ・古い社 5~6世紀:神社成立期。伊勢神宮、出雲大社・・・掘立て造り、心の御柱 ・ご神体 官社の神体・・・石、鏡、水が多い。「形無」もある。 ・神饌 目に見えない神へのもっとも丁重なもてなし 神の食事中に神事が進むという考え:米、塩、水、酒が基本で、それぞれに特色ある神饌→特殊神饌 (2)国家による神社制度 7世紀:律令祭祀制が進む ・官社:神祇官の常祇である祈年祭の班弊の対象となった神社 祈年祭(2月4日):その年の豊穣を祈願する7世紀に確立 ・二十二牡・・・8世紀~11世紀にかけて順次成立 →畿内に集中(天皇の勅使が奉弊した) ・式内杜(延喜式神名帳)2861社 3132社(10世紀) ・-の宮(ニの官、三の宮)・・・12空世紀 武蔵の一の宮=さいたま市の氷川神社 ・総社・・・11世紀末~:国司の遥任と関係がある。→まとめて祭祀を行う 武蔵の国総社=大国魂神社(府中市宮町) ・神祇制度の崩壊・・・応仁の乱(1467-77)で決定的に崩壊 武家の登場・・・新たな 神祇信仰の担い手 ⑶勧請され、分祀される神 神社の勧請:八幡社、天神社、稲荷社などの広まり ・八幡信仰:宇佐八幡→石清水八幡(860年)→鶴岡八幡(1180年) 源氏の氏神とされてから、多くの武士に勧請された。 ・天神信仰:菅原道真(845~903)を天満天神として崇敬する 太宰府天満宮(10世紀)、湯島天神(14世紀に道真を合祀) 御霊信仰→学問の神へ ・稲荷信仰:伏見稲荷大社(8世紀):仏による救済の対象としての神 ・豊川稲荷:(15世紀、曹洞宗、荼枳尼(ダキニ)天=白狐の背に乗り、稲束をかついだ女神) 江戸時代に都市部に広まる→「伊勢屋、稲荷に、犬の糞」 ⑷神仏習合の展開 「神身離脱」(8世紀):仏による救済の対象としての神 「本地垂迹説」(11~12世紀):本地仏が決められていく。 習合神の登場:牛頭天王、金刀比羅大権現 神仏習合状態は江戸時代まで続く ⑸近現代の神社 ・神仏分離・・・神社と寺院、神職と僧侶を明確に分ける 1868年神仏判然令 「国家と宗祀」としての神社 ・国家管理された神社:官幣社・国弊社の制度・・それぞれ大中小の別(終戦時に220社余) ・靖国神社、護国神社の設立・・・「国のために奉じた人々」を祀る。 ・伊勢神宮の重視:皇室の祖神=天照大神→国民すべての義務とされた。 ・戦後の神社 政教分離、信教自由の時代となる→神社も宗教法人の一種となり、いわば「民営化」された。 神社本庁の設立・・・各神社を包括 伊勢神宮(正式には「神宮」)を本宗とする。 ・現在の神社の平均的姿 社殿:神殿、本殿、拝殿など(摂社、末社)、神楽殿、社務所、鳥居、狛犬、絵馬 神職と巫女→宮司、権宮司、禰宜、権禰宜、出仕などの呼称。神職養成機関 Ⅱ教団神道の歴史と今 (1) 学派神道 伊勢神道、両部神道、吉田神道、儒家神道、復古神道など (2) 戦前の神道十三派 1876年~1911年にかけ、13派が公認される。 出雲大社教、御嶽経、黒住経、金光教、実行教、神習教、神道修成派、神道大成教、 神道本局(のち神道大教)、神理教、天理教、扶桑教、禊教。 (3) 神道系新宗教 ・戦前:大本、生長の家、世界救世教、祖神道など ・戦後:善隣教、白光真宏会、世界真光文明教団・崇教真光、霊波之光教会など 20世紀になって、新宗教の数が増える。 戦後は宗教法人令・宗教法人法(現在)のもとで、非常に活動がしやすくなる。 Ⅲ 民俗神道の歴史と今 (1) 神について、日頃どんな言い方をするか? ・「神様・仏様、神も仏もあるものか」 ・「苦しい時の神頼み ・「八百万の神々がいる」 ・「伊勢屋、稲荷に犬の糞」 ・「まるで生き神様のようだ」 ・「今年はどこの神社に初詣に行こうか」 ・「そんなことをすると神罰があたるぞ」 ・「神様をお迎えする」 (2)年中行事 とくに宗教にこだわらないでかかわる人が多い ・初詣 ・初夢:七福神の宝船:恵比寿、大黒、弁財天、毘沙門天、福禄寿、寿老人、布袋 ・節分(春分の前日):2月3日頃→立春の前日 唐から伝わった風習。「おにやらい」とも。 追儺=鬼に扮した人を桃の弓・矢・棒で追う。悪疫・邪気を追う。 ・夏越の祓(茅輪):6月晦日 茅輪くぐり:蘇民将来伝説→夏の疫病との関係 cf 祇園祭り ・大祓:12月晦日 ・五節供(節句) →中国起源。基本的にはいずれも邪気を祓う目的。江戸幕府は節約のため五節供を定めた 人日(1月7日)→七草がゆ 上巳(3月3日)→桃の節供、ひな祭り 端午:(5月5日)→菖蒲の節供 七夕(7月7日)→牽牛・織女の伝説。裁縫や書道、芸能などの上達を願う乞巧奠へと変わる 重陽(9月9日)→菊の節供 いずれも奇数→中国の陰陽思想、中国では奇数が陽の数で、古代は奇数が好まれた(三々九度など) (3)人生儀礼・・・やはり宗教にこだわらない人が多い 初宮詣、七五三、成人式、結婚式、年祝い、葬式、年忌法要(霊祭) ・年祝い:還暦、古希、喜寿、傘寿、米寿、卒寿、白寿、茶寿など ⑷生業儀礼・・・年中行事と重なる面も 豊作祈願、収穫祭、豊漁祈願、上棟祭、特に農業儀礼が重要 ⑸除災招福を求める行為・・・道教などの影響が大きい 車のお祓い、地鎮祭、厄祓、おみくじ、交通安全などのお守り 合格祈願、家内安全、安産祈願、縁結び、・・・・神社祭式では「雑祭」 ・厄祓い 「和漢三才図会」(1712年頃)男は25,42,61歳、女は19,33,37歳を厄年 中国では、7,16,25,34,43,52,61歳を忌んだとされる。 ⑹背後にある概念 ・忌み・穢れの概念 民俗学で黒不浄と呼ばれてきた概念 死:したい、死者との接触 血:出産、生理 ・忌詞と言霊思想 →四=死、九=苦、42番=「死に番」、シクラメン、サイネリア→病気見舞いにタブー 「エテ公」「アタリメ」「アタリバチ」など 言葉は生命を持つと考える ・時間と空間についての吉凶概念(日柄方位) 空間に対して・・・鬼門、方違 時間に関して・・・六曜(先勝、友引、先負、仏滅、対案、赤口) ・アニミズム すべての存在の背後に霊的なものを想定→多くの民族に観察される Ⅳ 神道のこれから 情報化の時代:境界線の消滅 グローバル化の時代:グローバルな展開と原理主義の回帰 ⑴ 伝統的な回路とその弱まり 家庭(血縁)、地域社会(地縁)、友だち(基本的に地縁と深く関係) →人生儀礼、年中儀礼、地域の伝承など 核家族化の影響・・・祖父母から孫への伝達が弱まる 都市住民の増加・・・地域の慣習への関心の薄れ 子ども集団の変化・・・縦のつながりの弱まり ⑵ 近代になって出現した回路とその特徴 学校、会社など→知っておいた方がいい同時代的習慣など 平均化した形式が伝わる(本などを参考にする)・・・マニュアル化された情報 情緒や情念の部分をあまり伝えない ⑶ 情報時代の新しい回路 テレビ・インターネットなど→基本的に断片的な知識。無責任な情報も一部ある。 霊能者として登場する人々の多様さ・・・「拝み屋さん」と呼ばれていた人、自称陰陽師、 自称超能力者 オカルト的なもの、興味本位なもの・・・民間信仰的なものを脚色して伝える。祟り概念の再生産 【参考文献】 テキスト 井上順孝著『神道入門-日本人にとって神とは何か』平凡社新書、2006年 事典 國學院大學日本文化研究所編『神道事典』(縮刷版)、弘文堂、1999年 入門書 井上順孝編著『図解雑学 神道』ナツメ社、2006年 中級編 井上順孝編著『ワールドマップ神道』新曜社、1998年